
HYROXの魅力に迫る Vol.1
1kmのランニングと8種目のワークアウトを交互に行う「HYROX」—ドイツ発祥のこのフィットネスレースが、いま日本で確実な広がりを見せている。株式会社ジムフィールド(本社・大阪)は、2025年2月に日本で初めてHYROXクラスを導入。わずか半年で退会率1%、売上・利益3倍という驚異的な成果を達成した。「ずっと何かが足りないと思って模索してきたが、欠けていたピースがHYROXだった」と語る同社代表取締役CEO・郡勝比呂氏。

初期投資100万円程度、月々のロイヤルティ2万円という参入しやすいコスト構造。しかし同時に、参入障壁の低さゆえの競合対策も不可欠だという。全国22店舗(直営2店・FC20店)を展開する同社は、「HYROXと言えばジムフィールド」というポジション確立を目指し、100店舗構想に向けて動き出している。「遊ぶように、鍛える」「大人の部活」—自社のコンセプトと見事に合致したHYROXを、どう事業として成長させているのか。導入経緯から具体的な運営数値、トレーナー育成、そして日本型HYROXビジネスの未来像まで、郡氏に詳しく訊いた。

(訊き手 Fitness Business編集長 古屋 武範)
*写真データ
株式会社ジムフィールド
代表取締役 CEO
一般社団法人ウェルネス&フィットネストレーナー協会
代表理事
HYROX365 ビジネスコンサルタント │ APAC JAPAN
郡 勝比呂氏
―「HYROX」に注目された理由や目的・導入の背景や経緯は?
「BEST BODY」や「SPARTAN RACE」など、フィットネス関連のイベントにはずっと興味をもって運営側としてお手伝いしてきています。そうしたこともあり、「HYROX」の日本導入に際して、日本側の代表者の方からお声がけいただいたことが、きっかけですね。世界中で流行ってきていたこともそうですが、これまで当社が「ジムフィールド」で取り組んできた「遊ぶように、鍛える」「大人の部活」というコンセプト、「スモールグループでのファンクショナルトレーニング」というスタイルに本当に近かったこと、日本人にもやり方次第でとても合うのではないか、特に新しいフィットネスの価値は「コミュニティ」や「サードプレイス」がカギになると思っていたので、当社の方向性ともドンピシャじゃないかという思いからも、ぜひやりたいと思いました。
そこで、2025年2月、梅田店(大阪府)に「HYROX」のクラスを日本で初めて導入しました。そこからFC店にもお勧めして、現在6店舗にまで広がってきています。

―導入環境の整備やそれに伴う費用、サービスの概要について、もう少し教えてください。
15坪で最大10名のグループセッションが可能です。会費は月々16,500円で、すべてのクラスを受け放題にしています。
「ジムフィールド」のジムは、どこももともとスモールグループでのファンクショナルトレーニングのクラスを提供していたので、空間が広々としていて、フロアも人工芝だったことが幸いし、とてもスムースに導入できました。天井高も確保されていたので、「ウォールボール」というボールを高く投げる種目も採り入れることができました。「スレット・ブッシュ・プル」というソリを押したり引いたりする種目や「バーピー・ブロードジャンプ」というジャンプしてバーピーするということを繰り返す種目なども、楽々採り入れることができたのです。「ファーマーズキャリー」というケトルベルを2つ持って200m走る種目もあるのですが、ちょうどジムのまわりに200mほどのコースがあるのでグループトレーニングする際には、「はい、1組は、これをもって外へ!」と言っています(笑)。スペース効率もよくなりますよね。ジム内は、土足OKにしました。外から戻ってもすぐに次のトレーニング種目に移ることができるようにするためです。

器具は、公式大会でも使われるCENTR社とconcept2社のもので揃えています。「スキーエルゴ」や「ローエルゴ」など、そのほかにも少しだけ買い増す必要があったのですが、すべて含めても100万円程度で済みました。ロイヤルティも支払う必要があるのですが、月々2万円ほどなので、あまり負担にはなりません。広告宣伝費として考えたら安いものです。

2025年8月に、横浜大会が開催されることになっていたので、当時は、そこに出場することを目標に集客と運営をしていました。これまでの同種のイベントに出場することと比べると、ハードルが低かったので、多くのお客さまが興味を持ってくださり、実際、横浜大会にも3組が参加しました。一般のお客さまもエントリーしやすいところは、いいところですよね。この点が、これまでの「クロスフィット」と異なり、これは普及するぞと思えたところです。ファンクショナルトレーニング化×フィットネスビギナー層という領域が、これから成長するホワイトスペースであるように見えました。「ジムフィールド」だけでも100店舗は出店できると確信できました。
「HYROX」のクラスも1日平均数本を導入し、そこからどんどん増やしていきました。機材もレースで使われているもの以外にもTRXやViPR、バトルロープなどのファンクショナルトレーニングツールを多数揃え、多角的でバリエーション豊富なトレーニングを提供できるようにしています。今、日本で一番クラスを提供しているのが「ジムフィールド」ではないでしょうか。ほぼ「HYROX」に振り切っていると言っていい状態になっています。
「HYROX」導入1号店の梅田店では、アプリからの予約システムを導入していますが、毎月70~80人が体験に来るほどの人気になっています。パーソナルトレーニングジムの急成長期は2015~2018年頃だったのですが、当時は広告宣伝をしなくてもたくさんの体験者が来ていたのですが、その時期と同じような盛況ぶりです。ずっと何かが足りないと思って模索しながら運営してきたのですが、欠けていたピースが「HYROX」だったんだと今では感じています。
―集客・販促施策は?
「ジムフィールド」は、SNS、MEO、SEO対策が強く、「HYROX+地名」で上位を独占しているため、広告費をほとんど使わず、顕在層を惹きつけられる状態をすぐにつくることができました。そもそも、現時点では、競合も少ないですから。
これから、さらに自店のコンテンツや顧客のレビューをアップしていくことで、AIにも選ばれるようにしていきます。
また、PFT(フィジカルフィットネステスト)や、レンタル、レースシミュレーション(模擬レース)ができる環境であるため、それらをSNSで発信することで、「HYROX」フリークを集めることができたこともよかった点として挙げることができます。」
リファーラル集客率(紹介入会率)も以前よりも高く、コミュニティづくりが当たっていると感じています。
顧客満足度が高く、半年間で退会者0という記録をつくれ、売り上げや利益も3倍以上になりました。顧客生涯価値(LTV)が高いので、キャッシュフローが一気に向上しました。

―導入後の課題と解決施策は?
「HYROX」は、本当にいいプログラムであり、コンテンツでもあると思うのですが、その分、参入障壁が低く、資本力のあるジムが近隣に出店する可能性もあるため、差別化や競合優位性をしっかりと構築する必要性を感じています。
「ジムフィールド」は、対象とする顧客を初級者や中級者に絞っているため、「HYROX」市場全体を広げる活動に取り組みつつ、そこでイニシアティブをとりつつ、付加価値を高め店舗数などを増やしていくことで競合他社に追随できない存在になっていきたいと考えています。
そのためにも、「看板」となる指導者をつくり、インフルエンサーとして活躍してもらったり、フランチャイズシステムを構築したりして、やがてトレーナーでも暖簾分け等によりオーナーとなってジムを開業できるようにしていきたいと思っています。
やがては「『HYROX』と言えば、ジムフィールド」と、対象とする顧客からイメージしてもらえるようになるようにできたらいいなと考えています。
―そのためには、入会してくださった初級者や中級者の方々が、自分にとっての「HYROX」の魅力を感じることができて、そこからさらにスムースに、それを継続できるようにサポートしていけるトレーナーの「介入」がとても重要になるのでは?
そうですね。まずトレーナー自身が、「HYROX」の魅力に惹かれて、取り組んでいることが大切ですよね。そのためには、採用や育成、それから価値観や文化の共有~浸透などが、とても大事になると思います。

―トレーナーの育成は、どのようにしているのか?
「ジムフィールド」の研修制度は、「ハイブリッドトレーナー」育成を特徴にしています。
つまり、マンツーマン指導だけでなく、グループ指導ができるトレーナー育成システムになっています。ですが、できるだけ短期間で、基礎を育成できるように一週間で取得できるカリキュラムにしています。業務委託トレーナーを早期に育てられるという利点があり、リクルート費用を最小限に抑えられることもメリットです。その後の成長は、実践を通じてサポートしていきます。
―トレーナーは、実際、現場ではどんなふうに指導しているのか?
「HYROX」のプログラムは、8種目のワークアウトとRUNに特徴があり、プレコリオ的で、プログラム構成はしやすいほうだと思います。例えば、先の「ウォールボール」は、その動作を分解すると、1つは「スクワット・プレス」のような動きになります。ビギナーには、その動きをまずトレーニングしてもらうようにするのです。
「軸」がしっかりしているので、そこからバリエーションを考え、そこに各トレーナーの個性が上乗せされるようにして、指導サービスに取り組んでいます。
ただ、ガチのお客さまとビギナーが混在するケースが出てきているので、安全上の配慮など注意が必要になってきているので、クラス設計を細かく丁寧にするようにしています。
今後はレースを前提とした場合のメンテナンスやケアなども合わせて提供できるスキルが求められるようになるでしょう。
これまで、フィットネスクラブの多くは筋トレを何かの目的を達成する手段として提供してきたと思うのですが、「ジムフィールド」では、それ自体を目的化するように提案、提供していきたいと思っています。筋トレを「ペイン」の解消ではなく、「ゲイン」の促進として位置づけたいのです。これからAI時代に向かうなかで、トレーナーの役割を考えたときにも、どちらかといえば、人々はトレーナーに「ゲイン」の促進をサポートすることを求めるようになると思っていますので。
―顧客の動きや評価は?
20~30代の若い世代で、特に男性の参加が、多いですね。
「HYROX」のイメージはいわゆる「ガチ勢」だったのですが、「ジムフィールド」では既存顧客を中心としたライト層にとにかくウケており、「BEST BODY」や「SPARTAN RACE」を敬遠していた方々がこぞって大会に参加してくれました。これは、いい意味で計算外でした。フィットネスに対してビギナーの方々が、新しいスポーツに取り組むような感覚で、「HYROX」に取り組んでくれたのです。だからかもしれませんが、結果として「コミュニティ」ができたことも、よかったです。今後、こうしたコミュニティのなからカップルも誕生してくるのかもしれません。
経営的にも、継続率、紹介率が劇的に上がり、退会率も1%ほどで押さえられています。まさに「HYROXバブル」といった感じです。

―最後に、事業者としての今後の展望や抱負、「HYROX」への期待や関係者へのメッセージを!
参入障壁が低いので、競合他社との差別化を考えたうえで取り入れないと、一過性の利益に留まってしまうと思います。
「ジムフィールド」としては、全国100店舗を目指し、自主トレや自主ランに加え、グループトレーニング、パーソナルトレーニングや映像でのトレーニングなど、いつでも運動できる「ファンクショナルステーション」的な場所を確立していきたいと考えており、老若男女幅広く利用できる健康インフラとして根付かせていきたいと思っています。この方向性は、世界とは異なると思っていますが、日本ではこういうアプローチが合っているのではないかと思っています。
プログラム自体が、日本と文化的な背景や価値観が似ているドイツ発祥ということもあり、日本人にも合っているんですよね。
「文化」から「インフラ」にしていくのは、全国に500店舗ほどができることが必要だと思っているのですが、それは実現可能だと思っています。100万人ほどの参加者がでるほどにして、日本のフィットネス人口の拡大に1%分の貢献をしていきたいです。
2030年のブリスデンで開催されるオリンピック種目にもなるので、子どものたちにとっては将来夢のあるスポーツ選手、シニアの方にとっては生涯健康体操の位置づけになり、現役世代にとっては「健康経営」の文脈でなくてはならない存在になるのではないかと考えています。
「HYROX」はボランティアによって広がってきているので、ジムのプログラムとしてただ活用するだけでなく、運営側に参画することも、また意味のあることになると考えております。
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