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「HYROXジム」開業、HYROXを主軸にしたジムをつくろうとする時、 気をつけたい7つのポイント

「HYROXジム」開業、HYROXを主軸にしたジムをつくろうとする時、 気をつけたい7つのポイント

HYROXの認知が国内でも急速に広がるなかで、「HYROXを主軸にしたジムをつくりたい」というご相談が増えています。ただ、ご相談の最初の質問は、ほぼ例外なく「どの器具を揃えればいいか」です。スレッド、スキーエルグ、ローワー、ウォールボール—競技の8種目から逆算して器具リストをつくる。それ自体は間違いではありませんし、当社が適切なアドバイスもできますし、すべての器具を揃え、ご提案の上、ご検討いただき、ご購入いただくこともできます。

HYROX商品一覧はこちら→

 しかし、開業後に事業を圧迫する問題の多くは、器具選定から生まれてはいません。近隣からの申し入れで営業時間が制限される。施設名に「HYROX」を冠せない。レース出場者だけでは会員数が積み上がらない。大会が終了したり、コーチが辞めたりした途端にクラスの質が落ち、利用者が減る—いずれも、器具を選ぶ「前」の判断で決まっています。

 HYROXを主軸にしたジムは、通常のフィットネス施設よりも、この「前」の判断が大切になります。競技規格が空間の寸法を決め、本部との契約が名乗れる呼称を決め、指導サービスの設計がクラスの再現性と持続的な収益性を決めるからです。

 

●7つのポイントは、3つの層に分かれます

 第1層:事業の輪郭を決める(後から変えると、すべてが変わる)

 (1) HYROX本部に連絡し、アフィリエイトジムとして登録する

 (2) HYROXだけをコンテンツにせず、メイン・サブの対象顧客を設定し、CEPと価値提案を設計する

 

第2層:物理的に、後戻りできない(変更に工事と休業を伴う)

 (3) 近隣の施設や上下階のテナントに、迷惑がかからないかどうか

 (4) 顧客が安全に、快適に利用できる環境設計・空間デザインになっているかどうか

 (5) スタッフがその環境・空間を維持でき、経営・運営の持続性が確保しやすいかどうか

 

第3層:開業後に、効き続ける(続けられるかどうかで差がつく)

 (6) HYROXの指導者資格を取得する

 (7) 着実に運営を改善するために、必要な情報を広く得る

 

この順番は、重要度の順ではありません。判断のやり直しにかかるコストが高い順です。第1層は事業の前提そのものを、第2層は工事と休業を、第3層は日々の運営のなかで調整の余地を残します。だから、この順に考える必要があります。

 (1) HYROX本部に連絡し、アフィリエイトジムとして登録する

 ・「HYROX」は、名乗れる名称ではなく、許諾される名称

 HYROXの名称とロゴは商標です。「HYROX対応ジム」「HYROXが練習できる施設」といった表現も、許諾なしに掲げることはできません。この確認を後回しにすると、看板も内装も販促物も、つくり直しになります。

 現在、施設向けの枠組みはHYROX365のアフィリエイションプログラムに集約されています。大きく3つです。

 HYROX TRAINING CLUB——どのようなタイプのジムでも申請できる基本形。

 HYROX TRAINING ZONE を導入したクラブ——公式のレイアウト基準と指定器具パックを導入した上位区分。

 

HYROX PERFORMANCE COACH——施設ではなく、個人のコーチを対象とした区分。

 ・TRAINING CLUBとして得られるもの

 施設名や事業上のコミュニケーションに呼称を含める権利。承認された範囲でブランドとロゴを販促に使用する権利。会員に対してHYROXのグループクラスを提供する権利。公式サイトのジムファインダーへの掲載。館内でのPFT(フィジカル・フィットネス・テスト)やベンチマークの実施。

 館内競技会の開催も可能ですが、「公式のHYROXイベントではない」ことを明示する必要があります。ここは、販促表現の設計に直結します。

 

・手続きと、契約の形

 HYROX365のポータルでアカウントを作成し、事業体とジムを登録して、オンラインで契約に署名する流れです。支払いは月額または年額。契約期間は12か月で、終了の60日前までに解約の意思表示がなければ自動更新となります。

 

当社から、HYROXのご担当者に直接おつなぎすることもできます。

 

事業計画上、この「12か月・自動更新・60日前通告」は、固定費の性質を持ちます。初年度の収支だけでなく、撤退判断のタイミングにも関わる条件です。

 ・上位区分を目指すなら、空間要件が物件選定を縛る

 HYROX TRAINING ZONE は、公式のレイアウト基準に沿って、指定の器具パックを導入することが条件になります。公表されている最低要件は、面積で約199.5㎡、長さで19m、幅で10.5m(4レーン・16名想定)。最適なレイアウトとしては、16名で約304.5㎡、24名で約349.3㎡、32名で約459.9㎡が推奨されています。

 

日本の物件事情に置くと、この数字の意味は明確です。19mの直線が確保できる賃貸物件は、多くありません。

 加えて、延べ面積が200㎡を超える場合、建築基準法上「スポーツの練習場」(特殊建築物)に該当するものとして、用途変更の確認申請が必要になるケースがあります。2019年の改正で対象規模は100㎡超から200㎡超に緩和されましたが、最低要件の199.5㎡は、ちょうどその境界線上の数字です。

 該当するかどうかは、施設形態や所轄の特定行政庁の判断によって分かれます。同じ計画について、担当者によって回答が異なることも珍しくありません。物件を決める前に、建築士と所轄に確認しておく項目です。

 

・物件を探し始める前に、整理しておきたいこと

 どの区分を目指すのか。年間のライセンス費用と支払い条件。ブランドガイドラインの制約(看板・内装・SNSでの表現)。同一商圏における他のアフィリエイトの有無。日本での窓口と、日本語での対応範囲。

 なお、アフィリエイトジムのコーチには、後述するアカデミーの基礎コースが無償で提供されます。人材計画にも効いてくる要素です。

 (2) HYROXだけをコンテンツにせず、メイン・サブの対象顧客を設定する

 ・「HYROXを主軸にする」は、コンセプトではない

 HYROXを主軸にする、というのはコンテンツの選択です。コンセプトは「誰の、どんな場面に、どんな価値を提供するのか」で決まります。ここを飛ばすと、レース出場者だけを想定した施設ができあがります。

 

商圏内に、HYROXのレースに出場する人が何人いるでしょうか。その人たちは、週に何回来館するでしょうか。その人たちだけで、損益分岐点を超えられるでしょうか。

 

競技人口は伸びています。しかし、伸びている市場と、いま自分の商圏にある市場は、別のものです。

 ・メインとサブを、分けて設定する

 メイン顧客は、施設の設計思想を決める層。サブ顧客は、稼働と収益を支える層。この2つを混同すると、どちらにとっても中途半端な施設になります。

 たとえばメインを「レース完走を目指す市民アスリート」に置くなら、サブは「レースには出ないが、目標を持って鍛えたい層」「走ることに物足りなさを感じ始めたランナー」「一人では追い込めない人」「体力の低下を実感し始めた40〜50代」といった置き方があります。

 サブ顧客をどこに置くかで、必要な環境は変わります。初心者を含めるなら、負荷の高いゾーンと、入門者が萎縮しないゾーンを、視線と動線の上で分ける必要が出てきます。これは(4)の空間設計に直結する判断です。

 ・CEPで、想起の入口を増やす

 人がジムを思い出すのは、「ジムに行こう」と思ったときではありません。何かの場面に紐づいて思い出されます。カテゴリーエントリーポイント(CEP)とは、その場面のことです。

 「HYROXに出たいとき」だけをCEPにすると、想起される場面が少なすぎます。「レースに申し込んでしまって、焦ったとき」「ランニングだけでは物足りなくなったとき」「一人でのトレーニングが続かなくなったとき」「仲間と競い合いたくなったとき」「健康診断の数値が気になったとき」——結びつく場面を複数持てるかどうかが、商圏内での想起シェアを決めます。

 ただし重要なのは、掲げたCEPを実際に満たせる環境と運営が伴っているかどうかです。想起の入口だけを増やしても、来館した人の体験がそれに応えられなければ、逆効果になります。CEPの設計と、環境づくりは、対で考えるものです。

 

・価値提案は、「比較可能性」から立てられる

 HYROXの本質的な強みは、世界中で同一の規格が反復されることにあります。だから、自分のタイムが比較できる。前回の自分と、同年代の平均と、隣で走る仲間と。

 この「自分の変化が数値で見える」という価値は、レースに出ない人にも効きます。館内で実施できるPFTは、まさにその装置です。レースに出ることをゴールにするのではなく、「測れること」自体を価値として提示できるかどうか。

 主軸をHYROXに置きながら、HYROXの外にいる人にも届く価値提案を設計する。この二重構造が組めるかどうかが、事業の広がりを決めます。

 

(3) 近隣・上下階に、迷惑をかけない設計になっているか

 HYROXを主軸にする施設では、この項目のリスクが通常のジムより一段高くなります。理由は、加振の性質が違うからです。

 ・「点の衝撃」ではなく、「線と面の連続加振」

 一般的なウエイトトレーニング施設で問題になるのは、ダンベルやバーベルを床に下ろす瞬間の衝撃です。これは点で発生し、断続的です。HYROXの種目は、性質が異なります。

 スレッドの押し・引きは、150kgから200kgを超える荷重が、床の上を連続して移動します。点ではなく、線の荷重です。しかも往復します。

 

ウォールボールは、壁を直接叩きます。1名が100回、クラスであれば同時に十数名が。壁体そのものが加振源になります。

 

バーピーブロードジャンプは、着地衝撃の反復です。ローイングとスキーエルグは、低周波の連続振動とフライホイールの風切り音を出します。サンドバッグやケトルベルの設置音が、これに重なります。

 

さらに、グループクラス形式では全員が同じ動作を同時に行います。加振が同期する。単独で使うジムとは、伝わり方そのものが変わります。

 

トレーニング施設の近隣トラブルで最も多いのは、空気を伝わる音(空気伝播音)もそうですが、それ以上に、建物の躯体を伝わる振動(固体伝播音)です。空気伝播音は壁や扉で止められますが、固体伝播音は建物そのものが伝達経路になるため、遮ることが難しい。「真下の階よりも、2つ下の階や斜め下の部屋のほうが響いていた」という事例も珍しくありません。

 

そして、この問題が深刻なのは、発生してからの選択肢がほとんどないことです。営業時間の短縮、種目の制限、クラス時間帯の変更、そして退去。いずれも、事業計画の前提そのものが崩れます。

 

・用途の承諾を、書面で取る

 

「フィットネス施設として使用すること」を管理会社・オーナーに明示し、書面で確認します。このとき、HYROXを主軸にするのであれば、想定する種目とクラスの時間帯まで、具体的に伝えておくことをおすすめします。

 「フィットネスジム」という一般名詞で承諾を得ても、スレッドが床を走り、ボールが壁を叩くことまでは伝わっていません。後から「聞いていない」となったとき、不利なのは事業者側です。

 

あわせて、賃貸借契約書の騒音・振動に関する条項、原状回復の範囲(床の造作をどこまで戻す必要があるか)も確認しておきます。

 

・床の積載荷重を、「移動荷重」として確認する

 

事務所ビルや店舗ビルは、フィットネス施設の使用を想定して設計されているとは限りません。

 HYROXの場合、確認すべきは静的な設置荷重だけではありません。スレッドは、レーンの上を荷重が移動します。ウォールボールのターゲットを壁面に固定するなら、壁体に繰り返し衝撃を伝えます。想定する器具の総重量、設置位置、そしてレーンの位置を持って、建物の構造図と照らして確認する。必要であれば、構造の専門家の確認を取ります。

 

・上下左右に、誰がいるかを見る

 

真下が飲食店なのか、上が住居なのか、隣が事務所なのかで、リスクの性質はまったく違います。深夜営業を想定するなら住居との関係が、日中の集中を要する業種が隣接するなら日中の営業が問題になります。

 特にウォールボールのターゲット壁については、その壁の反対側に何があるかを必ず確認します。隣接テナントの事務室と背中合わせであれば、その位置は選べません。

 建物の構造も見ておきます。一般に、鉄骨造は鉄筋コンクリート造に比べて振動が伝わりやすい傾向があります。同じ対策を施しても、結果が変わります。

 

・打てる手は?

 

床については、単にマットを厚くするのではなく、防振層を挟んだ多層構造を検討します。スレッドのレーンは、可能であれば1階・地盤面に近い階に、柱際など振動が伝わりにくい位置に配置する。

 ウォールボールについては、壁面固定ではなく自立式のターゲットラックを用いて、建物の壁体から縁を切るという選択肢があります。ただしこの場合、必要な奥行きが増えます。レイアウトと同時に決める必要があります。

 BGMについても、クラス形式では音量が上がりがちです。低音域が壁を伝わりやすいため、スピーカーの設置方法を含めて設計段階で検討します。

 いずれも、床を仕上げた後では休業を伴う工事になります。

 (4) 顧客が、安全に・快適に利用できるか

 「安全」と「快適」は、しばしば同じ文脈で語られますが、別のものです。安全は事故が起きないこと。快適は「また来たい」と思えること。前者は事故として顕在化しますが、後者は退会理由として言語化されないまま、静かに継続率を下げます。

 HYROXを主軸にする場合、この項目には固有の条件が加わります。動作の寸法が、競技規格の側から決まってくるからです。

 ・天井高は、ウォールボールが決める

 ウォールボールのターゲット高は、男子3.00m、女子2.70m。そしてボールは、ターゲットラインより上まで到達します。加えて、照明、スプリンクラー、空調ダクト、配管が天井面にあります。

 ターゲット高3.00mに対して、実際に必要な天井高はそれより相応に高い。設備の位置を含めて、断面で検討すべき項目です。物件の内見時に、実測しておきたい数字のひとつです。

 

・レーン長は、スレッドが決める

 

レースのスレッド押しは、50mを12.5m×4本で構成します。館内で12.5mの直線が取れるかどうかで、練習の質が変わります。取れなければ短い距離の往復になりますが、方向転換の回数が増えるぶん、負荷の性質そのものが変わります。

 HYROX TRAINING ZONE の最低長さが19mとされているのも、この寸法が背景にあります。

 ・「距離」を要する種目が、複数ある

 ファーマーズキャリーは200m、サンドバッグランジは100m、バーピーブロードジャンプは80m。いずれも館内では往復で処理しますが、往復の回転スペースと、隣のレーンとの間隔が必要になります。

 「器具は入ったが、2人が同時に使うと接触する」という状態は、安全上の問題であると同時に、実質的な同時利用可能人数が設計値を下回っていることを意味します。クラス制の施設では、定員は器具の台数ではなく、レーンの本数と幅で決まります。

 ・ランニングを、どう扱うか

 HYROXは、合計8kmの走行が種目の間に挟まる競技です。これを館内でどう扱うか——トレッドミルを置くのか、館内に周回動線を設けるのか、屋外に出すのか。

 トレッドミルで対応するなら、その台数がクラス定員の上限になります。設備投資の規模と、クラス設計の両方を左右する判断です。

 ・動線は、交差させない

 入口 → 受付 → 更衣室 → トレーニングフロア → 更衣室 → 退出。この流れが、トレーニング中の動線と交差しないか。

 特にスレッドのレーンは、重量物が床上を移動する空間です。この線を、他の利用者や退出者の動線が横切る設計は、快適性ではなく安全の問題として扱う必要があります。

 避難経路の確保は言うまでもありませんが、これは法令上の要件であると同時に、日常の使いやすさの指標でもあります。

 ・更衣室は、クラス定員の「2倍」で考える

 一般的なジムでは、ピーク時の同時利用者数からロッカー数を逆算します。しかしクラス制の施設では、退出と入館が同時に発生します。クラスを終えた十数名と、次のクラスに入る十数名が、同じ時刻に更衣室にいる。

 想定するクラス定員の2倍を基準に、ロッカー数とシャワーブース数を検討します。ここが不足すると、混雑時の体験が一気に悪化し、しかも増設が難しい。

 ・空調・換気は、継続率に効く

 

運動時の発熱と湿度は、通常の店舗設計の想定を超えます。HYROXのクラスは、高強度の運動を全員が同時に行う形式であり、発熱量はさらに大きくなります。

 空調能力が不足している施設は、夏場に「なんとなく足が遠のく」という形で数字に表れますが、退会アンケートに「暑いから」と書かれることはまずありません。設計段階で、想定人数における発熱量から必要能力を検討しておきたい項目です。

 ・床材は、種目ごとの役割から決める

 スレッドの走行面には、適切な摩擦と耐久性。ウォールボールの落下面には、衝撃吸収と耐久性。ランジ・バーピーのエリアには、グリップと肌当たり。エルゴメーターの設置面には、振動対策。求められる性能が違う以上、施設全体を同一の床材で仕上げる必然性はありません。

 特にスレッドの走行面は、摩擦係数が体験そのものを決めます。レース会場のカーペットと、一般的なジムのターフでは、同じ重量でも体感が変わります。どちらに合わせるかは、施設のコンセプト——レース準備の場なのか、トレーニングの場なのか——から決まります。

 エリア間の見切り(段差)は、つまずきの原因になり得ます。疲労した状態での移動が前提の施設では、この処理を丁寧に行いたいところです。

 ・「入りやすさ」も空間デザインの一部

 入口正面にスレッドレーンと重量プレートが見える構成は、想定する顧客層によっては入店の心理的ハードルを大きく上げます。(2)で設定したサブ顧客が初心者を含むのであれば、最初に目に入るべき景色は変わります。

 誰に来てほしい施設なのか。空間は、その答えを黙って語ります。

 (5) スタッフがそれを維持でき、運営が続く設計か

 最も抜け落ちやすいのが、この項目です。設計の検討は、多くの場合「オープン初日の状態」を基準に行われます。しかし運営は、3年、5年と続きます。

 ・消耗が速いことを、前提に組む

 HYROXの器具は、消耗します。スレッドの走行部、ロープ、サンドバッグの縫製、ウォールボールの外皮、エルゴメーターのチェーンとモニター。しかもクラス制であれば、同じ器具が1日に何度も使われます。

 交換部品の調達ルートと納期を、開業前に確認しておく。輸入品が中心になる場合、この確認を怠ると、1台の故障がクラス運営そのものを止めます。

 ・清掃時間は、設計で決まっている

 床材の継ぎ目、器具の脚まわり、ターフの目地、スレッドの下、ウォールボールの落下面。これらの処理によって、日々の清掃にかかる時間は変わります。

 仮に1日30分の差が生じれば、年間で約180時間。これは人件費であり、その時間をスタッフが顧客対応に充てられたはずの機会損失でもあります。清掃のしやすさは、床材選定の「おまけ」の評価項目ではなく、運営コストを規定する一次的な条件として見るべきものです。

 ・点検できる配置になっているか

 ボルトの緩み、ロープの摩耗、ターゲット固定金具の緩み——ウォールボールのターゲットは、1クラスで千回を超える打撃を受けます。点検の頻度は、安全に直結します。

 このとき問題になるのが、点検のための物理的アクセスです。壁面にぴったり寄せた器具は背面の確認ができず、密に並べたエリアは1台を点検するために周囲を移動させる必要が生じる。結果として、点検の頻度が下がります。点検されない器具は、安全上のリスクそのものです。日常点検の動線を、レイアウト検討の段階で織り込んでおきます。

 ・転換時間が、1日のクラス数を決める

 クラス制の施設では、クラスとクラスの間にセットアップと片付けが発生します。器具の収納位置と移動距離が、この転換時間を決めます。

 転換に15分かかる施設と、5分で済む施設では、1日に実施できるクラス数が変わります。それはそのまま、施設の売上上限の差です。器具の「使う位置」だけでなく、「しまう位置」を設計する。

 ・見通しが、必要人員を決める

 受付やスタッフステーションから、フロアの何割が見渡せるか。これは安全管理の指標であると同時に、必要な配置人員を決める要素です。

 HYROXの種目は、疲労下での高負荷動作が中心です。コーチ1人が同時に何名を安全に見られるか——この人数が、クラス定員の現実的な上限になります。死角の多いレイアウトは、同じサービス水準を保つためにより多くの人員を必要とします。人手の確保が容易でない現在の環境では、この差は運営の持続性に直結します。

 ・「固定するもの」と「動かせるもの」を分ける

 ウォールボールのターゲットとスレッドのレーンは、性質上、固定寄りの造作になります。しかし、競技の規格は改定される可能性があります。重量やターゲット高、距離の設定は、シーズンごとに更新され得るものです。

 ターゲット高に可変性を持たせておく。レーンの再配置に余地を残しておく。設計段階で、「今後10年動かさないもの」と「1〜2年で構成を変える可能性があるもの」を意識的に分けておく。この判断が、数年後の改装費用に大きく効いてきます。

(6) HYROXの指導者資格を取得する

 ・資格は「教える権利」ではなく、「教えられる内容の設計図」

 HYROX365には、コーチ向けの教育プログラム(アカデミー)が用意されています。基礎となるファンデーションコース、パフォーマンストレーニングを扱うレベル1、その上位にあたるレベル2という構成です。いずれもオンラインの自己学習形式で提供されています。

 アフィリエイトジムのコーチには、ファンデーションコースが無償で提供されます。ここは、必ず活用したい部分です。

・なぜ、開業前にオーナー自身が受けるべきか

理由は2つあります。

ひとつは、安全です。HYROXの種目は、見よう見まねで最も怪我が出やすい類のものです。スレッドを押すときの体幹の使い方、ウォールボールでの膝の向き、疲労下でのランジにおける腰の位置。しかも、疲労した状態での反復が前提の競技です。指導の質が、そのまま事故率に反映されます。


もうひとつは、設計です。カリキュラムを知らないまま空間を設計すると、レイアウトとプログラムが噛み合いません。プログラムがどういう順番で何を要求するのかを理解していれば、器具の配置も、レーンの本数も、収納の位置も、決め方が変わります。(4)と(5)の判断精度が、ここで上がります。

・属人化を、避ける

指導の質は、クラスの再現性を決めます。再現性は、定着率を決めます。

「あのコーチのクラスだから通っている」という状態は、短期的には強い。しかしそのコーチが辞めた瞬間に、会員が一緒に抜けます。複数名が同じ水準で指導できる体制を、開業時から意識しておく。資格の取得は、その共通言語をつくる作業でもあります。

・プログラムを使いこなせるかどうかは、理解度で決まる

アフィリエイトには、プログラミングのプラットフォーム(パフォーマンスハブ)が提供されます。ワークアウトのアーカイブ、進行的なトラック、館内チャレンジの設計素材、マーケティング素材。

ただし、素材が提供されることと、使いこなせることは別です。自館の会員構成に合わせて、どのプログラムを選び、どう修正するか。その判断ができるかどうかは、コーチの理解度に依存します。

なお、コース内容と日本語での対応範囲については、事前に確認しておくことをおすすめします。

(7) 着実に運営を改善するために、必要な情報を広く得る

・HYROX市場は、まだ「答えが定まっていない」

世界では既に1万を超えるアフィリエイトジムが存在し、参加者数も急速に増えています。しかし日本国内での展開は、まだ始まったばかりです。

 

つまり、参照できる国内事例がほとんどない。これは不利であると同時に、有利でもあります。情報を取りに行った施設と、待っていた施設の差が、そのまま結果の差になります。

・見るべき情報は、4つの層にある

第1に、本部からの情報。規格やルールは改定され得ます。重量設定、ターゲット高、距離、ブランドガイドライン、プログラムの更新。ポータルやコーチ向けの機会を通じて、一次情報に触れておく。

第2に、市場の情報。国内外のレース日程と参加者数。レースの直前には入会が増え、直後には離脱が増える——この年間の需要曲線を掴めるかどうかで、販促のタイミングも、人員配置も、キャッシュフローの読みも変わります。

 

第3に、先行市場の情報。英国、ドイツ、オーストラリア、米国では、既に多くのジムがHYROXを組み込んでいます。何が機能し、何が機能しなかったのか。海外の運営者コミュニティ、業界メディア、そして国内の他のアフィリエイトジムとの横のつながりは、貴重な情報源です。

第4に、自館のデータ。PFTの結果推移。クラスごとの出席率。レース出場者数と完走率。種目別の記録の伸び。入会経路と退会理由。

・「測れること」を、運営に組み込む

 HYROXの価値は比較可能性にある、と(2)で述べました。これは、施設運営にもそのまま当てはまります。 

会員の変化を定期的に測る仕組み——PFTの定例実施、ベンチマークワークアウト、種目別の記録管理——を運営に組み込んでおけば、会員にとっては成長の可視化になり、施設にとっては改善のためのデータになります。同じひとつの仕組みが、両方に効きます。 

・最後は、顧客の言葉

ただし、数値だけを見ていても分からないことがあります。


 退会理由に「HYROXが自分に合わなかった」と書かれることは、まずありません。「引っ越し」「忙しくなった」と書かれます。数値は、何が起きたかを教えてくれますが、なぜ起きたかは教えてくれません。

 続けている会員に、なぜ続いているのかを聞く。辞めた会員に、何が起きたのかを聞く。地道ですが、これに代わる情報源はありません。

 ●7つは、独立していない

 ここまで7つに分けて整理しましたが、実際にはこれらは相互に影響します。

(1)で上位区分を目指すと決めれば、(3)(4)の空間要件は、こちらの都合ではなく基準の側から確定します。

(2)でサブ顧客に初心者層を置けば、(4)の「入りやすさ」と(6)の指導設計が変わります。

(3)の振動対策で床を上げれば、天井高が下がり、(4)のウォールボールの成立可否に直接影響します。

 (4)でレーン間隔を広く取れば、(5)の清掃・点検はしやすくなる一方、クラス定員は減り、収益設計を見直す必要が出てきます。

 つまり、床材・器具・レイアウトを個別に検討して足し合わせても、良い施設にはなりません。

・どのような方が利用する施設なのか(メインとサブ)

・HYROXを、どう位置づけるのか(唯一のコンテンツか、主軸のひとつか)

・5年後、どのような運営体制で回しているのか

・そして、HYROXをめぐる熱量が今と変わったとき、この空間は何に使えるのか

 

最後の問いは、悲観から出たものではありません。市場環境は必ず変わります。変わったときに転用できる空間と、できない空間がある。その差は、開業時の設計で決まっています。

 

器具を決めてから、空いた場所に配置していくのではなく、逆から設計する。施設づくりのご相談をいただく際に、私たちが最初にお伝えしていることです。

●施設の開業・改装に関するご相談を承っております

「フィットネス市場」では、施設づくりに関する以下のようなご相談について、課題を整理したうえで、適切な専門事業者・パートナー企業をご紹介しています。

 

・HYROXを主軸にした施設を検討しているが、何から手をつけるべきか整理したい

 ・検討中の物件で、振動・荷重・天井高・レーン長の問題が起きないか確認したい

 ・床材の違いや選び方がわからない

 ・コンセプトは決まったが、導入器具とレイアウトが決まっていない

 ・既存施設にHYROXを組み込みたいが、既存会員との両立方法を検討したい

 ・既存施設の改装にあたり、運営効率の面から配置を見直したい

 時期未定、構想段階でも構いません。物件のご契約前にご相談いただけると、打てる手の選択肢が最も多く残ります。

 

【お問い合わせ・お申込み】

 株式会社クラブビジネスジャパン

 〒150-0045 東京都渋谷区神泉町20-25 神泉QSビル8F

 TEL:03-5459-2841

 E-mail:info@fitnessichiba.jp

 HP:https://business.fitnessclub.jp/

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 【本稿について】

 本稿に記載したHYROXのアフィリエイション区分、面積要件、契約条件、教育プログラム、競技規格等は、本稿作成時点で公開されている情報に基づくものです。制度・規格・料金は更新される場合があります。実際のご検討にあたっては、必ずHYROX365の公式情報および日本国内の窓口にてご確認ください。また、建築基準法・消防法の適用については、施設形態および所轄の特定行政庁・消防署の判断によって異なります。建築士等の専門家にご相談ください。当社から、建築・設備・内装の専門家をご紹介することもできます。